外資系マネージャーの独り言

日本で外資系企業のソフトウェアエンジニアマネージャーをやってる人のブログです

転職活動のすゝめ

誤解されそうなタイトルなので最初に断っておくと、この記事は仕事を転々として新しい挑戦をし続ける生き方を礼賛するわけではなく、みだりに転職の意思を匂わせて採用中の企業にインタビューする手間を取らせた挙句に「ごめんなさい」することを推奨しているわけでもありません。

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この記事を書いているのは、(特に)ソフトウェアエンジニアとして働いている人間にとって、「新しい挑戦の可能性を否定しない」転職活動を通じて得られるものの多さと、同じ環境で働き続けていく中でも成長するきっかけの多くを転職活動を通じて獲得できたよ、ということを共有するためです。

自分は10年+の経験のあるソフトウェアエンジニアで、今は東京で某テックカンパニーでマネージャーとして働いてます。ソフトウェア開発チームのマネージャーなので、人事的な雑用に加えてソフトウェア開発チームで技術的なあれこれの責任を持ってチーム&個人の成長を引っ張っていく立場です。チーム全体の生産性や成長にコミットするため日々頑張ってます。

今の職場に移ってから3年以上が経ちますが、幸運なことに2回のプロモーションを受けることができて、多くのチャレンジにぶち当たってその度に苦しみながらも様々なことを学ぶことができたなと感じています。

で、そのうちのひとつが、ソフトウェア開発に携わる一個人としてのキャリアを幅広く見つめて、様々な可能性にチャレンジする余地を残しておく...ということかなと思っています。簡単に言うと、自分のキャリアを長い目で見たときにどういう可能性があるのか、何が足りないのか、どういった方向性でキャリアを伸ばしていきたいのか...とかそういったことを冷静になって考えみる機会を多く持つ、ということです。

さらに言うと、日進月歩で変化し続けているソフトウェア開発の世界では、とにかく多くのことを勉強して吸収しつづける好奇心あるいは貪欲さが必要ですし、安心して同じ餅を何年も焼き続けていては未来は明るくない、ということにはできるだけ早く気づくべきだと思います。

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例えば、もしあなたがソフトウェアエンジニアだとして、今働いている会社・チームでずっと(例えば10年後)も働いているイメージはありますか?また、待遇やキャリアの成長といった点で考えて、高いレベルの満足を得ていますか?

もしこの二つの問いに高い確度で「はい」と言える人は、そもそも転職ということが(少なくとも当面の間は)必要のない人です。日本の一部企業では今でも終身雇用のキャリアモデルを基準に仕事・昇進が決まっていて、その仕組みが破綻していない環境で働いている(ある意味幸運な)人はこの記事を読む必要はありません(笑)。

hrnabi.com

日本国内の雇用環境の流動性の少なさの問題は多く語られていますが(例えば上の記事)、自分が思うにはこれは会社側の状況(会社の機能を維持・成長するために人が必要!)と、個人の都合(待遇のいい環境、働きやすい環境を求める!)の相乗効果である程度自動的に改善されて行くのではないかと考えています。もちろん、超えて行くべきハードルや、変わっていかなければいけないものは多くありますが。

それと同時に、被雇用者としての意識も「会社に忠誠を誓う」ことによる見返りとしての「会社におんぶに抱っこ」ではなく、少しばかりドライで現実的な「雇用契約に基づいた関係」に置き換わっていく必要があるのだと感じます。多くの日本人サラリーマンにとっては「キャリア=社内の出世双六」の意識だったと思うのですが、その双六ゲームを成立させている諸条件があちこちで破綻し始めているので、新しいゲームのルールが必要とされている、ということなのでしょう。

個人な意見ではありますが、日本企業の雇用文化(あるいは典型的な「サラリーマン」)は江戸時代の武家社会に酷似していると思っていて、例えば「お家大事」なところとか、役職を重視する上下関係だったり、規模(石高)を誇る文化であり、お家に属さない「浪人」は軽んじられる立場にある…という訳で、特に戦後の成長期・安定期において江戸時代的な(あくまで戦国時代ではない)武家社会のマインドセットがサラリーマン社会に定着したのではないでしょうか。

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そんなわけで、社会の安定期に特化したマインドセットを吹っ飛ばして、しなやかに被雇用者人生を渡っていくには、いつでも「自分のキャリア」というものを見つめ直して、今の自分の市場価値を把握しておき、かつ世間ではどんな人材が求められているのか、そして自分がどんなことをしたいのか、あるいはどんなことを仕事に求めるのか、ということを考える機会を増やすことを有用なのではないか、というのがこの記事の趣旨です。

そして、なぜ転職活動がお勧めかというと、上に書いたようなことを自動的にやるよい機会になるからです。例えば、

  • 手持ちのスキル・経験の棚卸し (レジュメの作成・更新)
  • 自分のキャリアプランの見直し
  • 興味のある分野の調査と、それを実用化している企業のマッチング
  • 類似するポジションにおける待遇や市場の把握

…といったことは、何も考えずに働いていると触れることがありませんが、「新しい挑戦(転職)の可能性を否定しない」意識を持ち、情報収集の習慣を持つことで、定期的に触れる機会が増えます。

これは、長期的なキャリアプランを考える上で、例えば今やっている仕事で今後ホットになりそうな分野の技術に触れる機会を増やすモチベーションになったり、いつか働いてみたいと思える会社との出会いになったり、現職における待遇が妥当なものなのかを判断したりする基準になったり…といった形で、様々なメリットが生まれます。

また、興味があり、自分のスキルにマッチしそうなポジションに出会った場合、応募して面接に呼んでくれた場合は話を聞いて会社や技術の動向を知るよい機会になりますし、コーディングや技術的な知識を必要とされる面接の準備をするにあたっては、技術・知識のブラッシュアップをするよいきっかけにもなります。そして、幸運にもマッチする企業に出会えた場合(そもそもこれは滅多に起きない)、会社側は「本気で来て欲しい」とオファーをくれるので、現職との比較も含めてある程度の余裕をもって考えることができます。

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「転職活動」と聞くと「転職OK」フラグを立てて、ギラギラと目を光らせてチャンスを伺いつつ、貪欲に募集に対して応募をかけまくる…という印象になってしまいがちですが、そうではなくて、自分のスキルや経験、キャリア、さらにはそんな自分のような人物の需要はどこにあるのかといったことに対して、常に(あるいは一定間隔でもって)意識的になることには多くのメリットがあると自分は思います。

ソフトウェアエンジニアやマネージャーが具体的に仕事やキャリアを考える上でどうしたらよいのか、というお題についてはここでは触れませんが、自分がこれまでにやってきたことについては、いずれまた新しいエントリーで紹介できるかもしれません。

前にGoogleのハイヤリング・プロセスを一部経験した件については書きましたが、これも準備から実際のインタビューも含めてとてもよい勉強・経験になりました。

sdm.hatenablog.com