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日本の納税者 - 三木義一

先日日本の税法について調べていたら出て来たので、読んでみた。

日本の納税者 (岩波新書)

日本の納税者 (岩波新書)

 

国の主権者として、国民は納税の義務が課されると同時に権利を持つ。

日本は先進国の中では比較的税負担が低い国家に分類されるが、不思議なことに重税感は高く、これは税金の使途が不透明かつ公平感に欠けるように見えてしまっているのが原因だと著者は解く。世界で最も税負担の高い国の一つのデンマークでは、社会の幸福や公平性を重視した税金の使われ方を徹底することで、国民の重税感は日本よりも低いとのこと。

また、日本の税制には問題が山積みで、戦後の時代にGHQが派遣したシャウプ使節団によって為された変更や勧告と、そこから逸脱してより現場レベルのニーズにあった仕組みが同居した上で、さらに年末調整制度が給与所得者に導入されることで多くの国民が「納税者」である実感と、税制に対する問題意識を持ちうる機会が失われてしまったという。具体的には、「申告」型の確定申告によって納税している国民の割合は17%程度に留まっているとのことで、それ以外の大多数の日本人は自分が払っている税金というものに対して意識的になりにくい環境になっている。

例えば、帳簿の管理と提出が必要とされない白色申告では、税務署側が内容に不備や問題があった場合に行政指導という形で修正を求めることができる。しかし、青色申告では付記される処分理由が白色申告には付記されないため、求められている修正がいかなる理由や根拠によるものなのかが分からないといった問題点があった。これは2013年に改められたが、他にも税制を巡る課題は多く、著者はこの理由を国民の「納税者意識の低さ」、ひいては「主権者としての自覚の欠如」と断じている。

日本の民主主義が違和感のある形でもたらされ、維持されているものだという意識を自分は感じていて、その理由のうちのひとつに国の構造を「お上」と「庶民」という二つのものに分けて考えがちな思考回路が寄与しているのではないかと感じている。憲法は明確に国民主権を謳っており、「自分たちは主権者であり、納税は義務であると同時に使途についても主権者たる国民の声が最大限に反映されて決まるものである」という当たり前過ぎる意識が広まらない限り、現状が大きく改善されることはないのではないかと思ってしまった。

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われわれの世代の日本人が体験した「一億総中流」という社会は、戦争による資産家層と戦後の超過累進税率による所得の再分配政策がもたらした、過渡的な状況に過ぎなかったのだ。P.171